令外官【天皇大権の下で法の規制を受けない官職】

令外官について

【表記】 令外官
【読み】 りょうげのかん

令外官とは

『大宝令』や『養老令』で制定されていない官職(官司)のこと。

天皇、及び、上皇(太上天皇)の「意志」「欲求」に拠って設置され、その職務内容・定員数(「職」の場合)が決められ、さらに、改組も行われた。

これは、

『律令制の基本原理に違反して、令外の官を設置したのではなく、天皇大権の当然の行使』

(『日本の古代国家 日本歴史叢書』石母田正 岩波書店)

としての結果と見做される。

従って、令外官は『令』の規制を受けないと言う特徴を持つ。

令外官の設置に法的根拠を求めるならば、

『おそらく単行法』

(『日本の古代国家 日本歴史叢書』石母田正 岩波書店)

として考えるべきものとされる。

令外官の設置当初は、令制定時に想定されていなかった事態に対処するための臨時的な措置で置かれたものであった。

しかし、執政者の権力基盤としての性格を帯びるようになると常置されて行く令外官も増えて行く。

結果、令外官の方が令制官(『大宝令』や『養老令』で制定された官職)よりも遥かに強い権限を有すると言う逆転現象が永続化する。

著名な令外官に、摂政・関白・征夷大将軍等がある。

主な令外官

摂政・関白・内覧・内大臣・内臣・忠臣・知太政官事・中納言・参議・皇后宮職・紫微中台・中宮省・法王宮職・内豎省・内厩寮・斎宮寮・斎院司・造宮省・造東大寺司・造長岡宮使・征夷大将軍・按察使・節度使・鎮撫使・観察使・勘解由使・検非違使・蔵人所等がある。

令外官の特徴

奈良時代の令外官の特徴

奈良時代の令外官は、政権の運営方針に応じた令外官が設置され、太政官体制内部に組み込まれ令制官を補完するために機能したものと言える。

奈良時代の初期には、文武天皇の後継者である首皇子(後の聖武天皇)の即位を担保するための令外官が設置されている。

聖武天皇
(『聖武天皇像(部分)』 Wikimedia Commons)

また、蝦夷征伐のための兵士の棟梁を令外官として規定している。

《奈良時代に設置された主な令外官》

内大臣
内臣
忠臣
知太政官事
中納言
参議
紫微中台
中宮省
法王宮職
内豎省
近衛府
内厩寮
斎宮寮
斎院司
造宮省
造東大寺司
征越後蝦夷将軍
按察使
節度使
鎮撫使
近衛府 等

平安時代以降の令外官の特徴

平安時代以降に設置された令外官は、令外官自体が固有の強力な権限を有しており、太政官体制を超越するものとなっている。

中でも蝦夷征伐の棟梁としての令外官は、長岡京時代、桓武天皇に拠って「征夷大将軍」と改称され、武家政権が樹立された後には、明治維新に至るまで日本における最高権威のひとつとなる。

桓武天皇
(『桓武天皇像(部分)』延暦寺所蔵 Wikimedia Commons)

《長岡京時代・平安時代以降に設置された主な令外官》

摂政
関白
内覧
斎院司
造長岡宮使
征夷大将軍
観察使
左近衛府
右近衛府
勘解由使
検非違使
蔵人所
修理職
押領使
追捕使
記録荘園券契所 等

令外官の年表

年表
  • 大宝2(702)年
    5月21日
    大伴安麻呂等が朝政に参加(参議の設置)。
  • 大宝3(703)年
    正月20日
    忍壁皇子、知太政官事に就任。
  • 慶雲2(705)年
    4月17日
    文武天皇、中納言を設置。
  • 慶雲4(707)年
    7月21日
    元明天皇、授刀舎人寮を設置。
  • 和銅元(708)年
    3月13日
    元明天皇、造宮省を設置。
  • 養老3(719)年
    7月13日
    元正天皇、按察使を設置。
  • 神亀5(728)年
    8月1日
    聖武天皇、内匠寮・中衛府を設置。
  • 天平3(731)年
    11月22日
    聖武天皇、鎮撫使を設置。
  • 天平4(732)年
    8月17日
    聖武天皇、節度使を設置。
  • 天平勝宝元(749)年
    8月10日
    藤原仲麻呂、紫微令(紫微中台長官)に就任。
  • 天平宝字3(759)年
    12月2日
    淳仁天皇、授刀衛府を設置。
  • 天平神護元(765)年
    2月3日
    称徳天皇、近衛府・内厩寮を設置。
  • 天平神護2(766)年
    10月20日
    道鏡、法王に就任。
  • 神護景雲元(767)年
    3月20日
    称徳天皇、法王宮職を設置。
  • 7月10日
    称徳天皇、内豎省を設置。
  • 宝亀9(778)年
    3月3日
    藤原魚名、内臣に就任。
  • 3月30日
    藤原魚名、忠臣に就任。
  • 宝亀10(779)年
    正月1日
    藤原魚名、内大臣に就任。
  • 延暦3(784)年
    6月10日
    桓武天皇、造長岡宮使を設置。
  • 延暦13(794)年
    正月1日
    桓武天皇、征夷大将軍に節刀を授与。
  • 大同元(806)年
    5月24日
    平城天皇、観察使を設置。
  • 大同2(807)年
    4月22日
    平城天皇、左近衛府・右近衛府を設置。
  • 弘仁元(810)年
    3月10日
    嵯峨天皇、蔵人所を設置。
  • 弘仁9(818)年
    7月8日
    嵯峨天皇、修理職を設置。
  • 貞観8(866)年
    8月19日
    藤原良房、摂政に就任。
  • 仁和3(887)年
    11月21日
    藤原基経、関白に就任。
  • 寛平9(897)年
    7月3日
    宇多上皇、醍醐天皇践祚に際し内覧を設置。
  • 昌泰3(900)年
    正月28日
    藤原高藤、内大臣に就任。
  • 延久元(1069)年
    閏2月11日
    後三条天皇、記録荘園券契所を設置。