大兄【皇位継承資格保有者に与えられた称号の実態とは】

大兄について

【表記】 大兄
【読み】 おおえ・おいね

大兄とは

古代。

次期大王(天皇)候補の資格を有する王子(皇子)、及び、王のこと。

後の「皇太子」に準ずるが、「皇太子」は唯一絶対無二の存在であるのに対し、「大兄」の称号を有する王子(皇子)は同時期に複数存在していたのが特徴である。

初期の王権における王位(皇位)の相続形態が、

『祭事が政事に優先する時代のことであるから、当然に第一子が祭事にたずさわり、第二子をして政事にあたらせた』

(『神々と天皇の間 大和朝廷成立の前夜』鳥越憲三郎 朝日新聞社)

ものが、王位(皇位)継承資格を有する王子(皇子)の間での相続争いが顕在化したことで、一定の規則的なものとして形作られたものと見られる。

この背景には王子(皇子)の外戚のみならず関係する諸豪族の思惑や力関係が入り乱れていたことがある。

また、「大兄」の称号を有していても王位(皇位)に即くことが出来ず、称号のない王子(皇子)が即位したこともあった。

推古天皇36(628)年、山背大兄王は「大兄」の称号を有していたものの、王位(皇位)継承争いでは、タムラ王子(田村皇子)に破れて、即位は叶わなかった。

「大兄」を称する王子(皇子)や王は全部で8人だが、その内、半数の4人が大王(天皇)にはなれなかった。

『大化改新』以後、律令制国家へと展開していく過程で、唯一の正統な皇位継承者としての「皇太子」へと変貌を遂げることとなる。

歴代大兄一覧

【大兄名】 【父親名】 【母親名】 【即位後】
大兄去来穂別皇子 仁徳天皇 葛城磐之媛 履中天皇
勾大兄皇子 継体天皇 尾張目子媛 安閑天皇
箭田珠勝大兄皇子 欽明天皇 石姫 即位なし
押坂彦人大兄皇子 敏達天皇 息長広姫 即位なし
大兄皇子 欽明天皇 蘇我堅塩媛 用明天皇
山背大兄王 厩戸皇子 蘇我刀自古郎女 即位なし
古人大兄皇子 舒明天皇 蘇我法堤郎女 即位なし
中大兄皇子 舒明天皇 宝皇女 天智天皇

大王家(皇室・天皇家)の王子(皇子)、及び、王の中で「大兄」を称したのは、8人である。

最初のオオエノオザホワケ王子(大兄去来穂別皇子)の「大兄」は、同母兄弟間の王位(皇位)争いが熾烈であったことが留意され、そこから「嫡男」の意味合いの方が強かった。

ヤマト王権の男系王統(男系皇統)が断絶した後に、越国から迎えられ、女系を以って正統性を担保したオオド大王(継体天皇)の王子(皇子)であるマガリノオオエ王子(勾大兄皇子)については、

『勾大兄皇子は、大兄の称をもつように皇太子に当るのであり、有力な皇嗣の候補者』

(『日本の古代文化 日本歴史叢書』林屋辰三郎 岩波書店)

と見做され、ここに「大兄」は「皇太子」と同義的な意味合いを持つようになった。

ただし、この「大兄」であるマガリノオオエ王子(勾大兄皇子)は、ヤマト王権との血縁が極めて薄く、事実上、血縁は無いに等しい点は注目される。

さらに、大きな特徴として、オオド大王(継体天皇)の次代のアメクニオシハラキヒロニワ大王(欽明天皇)以降の「大兄」は6人いるが、その中の4人が大王(天皇)として即位出来ていないことにある。

高句麗の官位制度における「大兄」

倭(日本)よりも早く歴代中国王朝の影響を受け、官人制度を整備した高句麗において、600年代中頃までに整備された「官位十三階」中に「大兄」なる官名が存在する。

【順位】 【官名】
第1位 吐捽
第2位 太大兄
第3位 鬱拙
第4位 太大使者
第5位 衣頭大兄
第6位 大使者
第7位 大兄
第8位 収位使者
第9位 上位使者
第10位 小使者
第11位 小兄
第12位 諸兄
第13位 先人

「大兄」の官位は、第7位と言う、たいして高くも無い官位であった。

他に「太大兄」「衣頭大兄」と言う官名も見える。

倭(日本)の「大兄」の称号が先か、高句麗の「大兄」と言う官名が先かは不明である。

ただ、同時期に倭(日本)と高句麗において「大兄」の称号が使用されていたことは、注目すべき事実である。

そして、飛鳥時代、厩戸皇子の師となった高句麗僧の慧慈から、それらの情報も倭(日本)へ持ち込まれたはずである。

大兄の年表

年表
  • 継体天皇7(513)年
    12月8日
    勾大兄皇子、立太子。
  • 継体天皇25(531)年
    2月7日
    勾大兄皇子、即位。
  • 欽明天皇13(552)年
    4月
    箭田珠勝大兄皇子、薨去。
  • 敏達天皇14(585)年
    9月5日
    大兄皇子、即位。
  • 皇極天皇2(643)年
    11月1日
    山背大兄王、自害。
  • 大化元(645)年
    9月12日
    古人大兄皇子、殺害される。
  • 斉明天皇7(661)年
    7月24日
    中大兄皇子、称制。
  • 天智天皇7(668)年
    正月3日
    中大兄皇子、即位。